一般法と特別法
法学上の概念に、一般法と特別法というものがあります。
たとえば、モノの売り買いについては民法に規定がありますが、売買をビジネスとしておこなう場合も民法を適用するとちょっと具合が悪いのです。プロの売買ではスピードが要求されるなどの事情があるからです。そこで商法という特別法を作りました。この場合、民法が一般法で商法が特別法ということになります。
一般法と特別法の関係 ~特別法は一般法を上書きする~
一般法と特別法の適用関係はどうなっているのでしょうか。
結論を先に言いますと、特別法は適用範囲が狭いけれど、一般法より優先的に適用される、ということになります。
同一の事項が一般法と特別法に規定されている場合は特別法が適用されます。これはいいですね。そうするために特別法を作ったのですから。
しかし、あらゆる事項について一般法と特別法の両方に規定する必要はありません。特別法を作らなければならない理由がない事項についてまでわざわざ特別法に同じことを規定するのは無駄なのです。同一の事項について特別法に規定がない場合は一般法を適用します。
マイナンバー法は特別法、個人情報保護法は一般法
マイナンバー法も個人情報に関する法律ですが、個人情報の中でもとりわけ個人番号をその内容に含む個人情報(特定個人情報といいます)の取扱いについて定めた法律です。つまり、個人情報保護法は一般法、マイナンバー法はその特別法という関係にあります。
マイナンバー法に規定がない場合
たとえば、マイナンバー法には個人情報保護法第15条(利用目的の特定)に相当する規定がありません。だからといって、マイナンバーの提供を求めるときに利用目的を特定しなくてよいということにはなりません。
マイナンバーも個人情報ですから、個人情報保護法の規制を受けるからです。
特定個人情報(マイナンバーをその内容に含む個人情報)の取扱いに個人情報保護法上のガイドライン・指針を遵守する必要はありますか?というものがあります。もちろん遵守しなければなりません。特定個人情報も個人情報であることに変わりはないからです。
「利用目的による制限」(個人情報保護法第16条)は適用されない
個人情報保護法の規定のうち、マイナンバー法では適用を排除しているものがあります。つまり、マイナンバー法が優先適用される部分ということになります。
個人情報保護法をおさらいしましょう。
まず、取得に際しては利用目的を特定するのでしたね。そして、本人の同意を得ないで特定された利用目的を超えて個人情報を利用するのはダメでしたよね。逆に言えば、本人がいいといってくれればそれもOKということになります。
これをマイナンバー制度にあてはめるとどうでしょうか?
税務行政など、限られた場面でしか利用しませんよ、といって構築した制度なのに、一部の個人の意思によって必ずしもそうではないということになったらどうでしょう。制度の根幹が揺らいでしまいますよね。
そこで、マイナンバー法では、特定個人情報については、たとえ本人がいいですよといっても、利用目的の達成に必要な範囲を超える取扱いは認めないことにしました。
個人情報保護法の「利用目的による制限」(16条1項)は特定個人情報の取扱いに関しては適用されない、ということが個人情報保護士試験で毎回毎回でてきます。
ですから、みなさんも絶対に得点できるように、3回くらい唱えましょう。
「利用目的による制限」(個人情報保護法16条1項)は適用されない
「利用目的による制限」(個人情報保護法16条1項)は適用されない
「利用目的による制限」(個人情報保護法16条1項)は適用されない
いいですね? 個人情報保護法第16条はマイナンバー法第19条(特定個人情報の提供の制限)、第20条(収集等の制限)によって「上書き」されているとイメージしてください。
第三者提供の制限(個人情報保護法第23条)も適用されない
第三者提供についても本人の同意が必要でしたね。
これも特定個人情報の取扱いの場面でも適用されるとしてしまってはまずいですよね。
理由は利用目的による制限のところと同様です。マイナンバーを取り扱ってよい人(事業者)をマイナンバー法に定められた人に限定したのに、個人の意思で例外を作ることを認めてしまうのは不適当だからです。
こちらも、個人情報保護法第23条は、法律で定められた場合しか特定個人情報を提供してはならないと定めたマイナンバー法第19条によって上書きされているので、特定個人情報の取扱いに関しては適用されないのです。
第三者提供の制限(個人情報保護法第23条)も適用されない。
第三者提供の制限(個人情報保護法第23条)も適用されない。
第三者提供の制限(個人情報保護法第23条)も適用されない。
これでバッチリです。
個人情報保護法は個人の利益を保護するものだから本人の意思が重要、マイナンバー法は社会の基盤だから個人の意思で左右してはまずい、というイメージをもっているといいかもしれません。
繰り返しになりますが、15条(利用目的の特定)や、19条(データ内容の正確性の確保)についてマイナンバー法は規定していませんが、個人番号も個人情報なので個人番号を取り扱うときには個人情報保護法を守らなければいけません。
試験対策としては特定個人情報の取扱いに関しては適用されない上の2つの個人情報保護法の規定を覚えておけば必要にして十分でしょう。